【1. 本研究の目的】
本研究では、国境・境界地域における基礎教育(初等教育および中等教育)を調査の対象とし、次の四つの目的を設定する。
まず、①国境・境界地域での特徴的な教育事象の実態を解明し、②その教育事象が生じることになった歴史的背景や社会・政治・経済などの要因が何かについて、境界研究の分析法を用いて解明する。
その上で、個別事例の比較分析を行うことによって、③国境・境界地域の教育が解明されてはじめて浮かび上がる現代の教育事象 とは何かを明らかにする。
そして、こうした分析の過程を通じて、④国境・境界地域の教育を比較するための手法として新たな比較教育学方法論を構築する。
【2. 本研究の意義・独自性・創造性】
本研究は、比較教育学が蓄積してきた豊富な国別の国民教育研究を基盤として、学術上の 空白となっている国境・境界地域の基礎教育を初めて対象とする点に独自性がある。
その 意義は、国民教育研究において前提とされてきた「中央-周縁」の構図を乗り越えて、「中央-境界地域-境界の向こう側」という実態に適した視点をもつことにより、現代の教育事象をより多面的に理解するための新たな視座を提示できることにある。
また、境界研究の分析法を教育学に適用するという創造的な取り組みにより、現代の教育事象をより実証的に研究するための新たな方法論を構築することが期待できる。
新たな方法論による研究は、国境・境界の両側(あるいは三方)に存在する複数の国民教育制度を研究対象とするため、比 較教育学の共同研究によってのみ可能である。
他方、境界研究は学際的な研究領域であるが、 教育に関しては先行研究がなく、境界研究にとってもその発展が期待できる研究である。